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相続放棄・限定承認

民法は、相続開始と同時に、相続人は被相続人に属した一切の権利義務を当然に承継する旨、定めており、例え被相続人にどのような負債があっても、相続人はこれを引き継ぐのが原則です。しかし、負債は本来的には、被相続人がその責任において返済すべきものであり、債権者としても被相続人の財産を引き当てと考えていたに過ぎないのですから、相続人の意思とは関わりなく、被相続人の負債を無制限に引き継がせることは、相続人の負担が大きく、また衡平の原理にも反します。そこで法は、当然承継を規定する一方において、相続人がその意思により一応生じた相続の効果を否認する自由をも与えています。すなわち、これが①相続放棄、②限定承認と呼ばれるもので、いずれも相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述を行わなければなりません。


1.相続放棄

相続放棄とは、相続人が一応生じた相続の効果を確定的に拒絶し、初めから相続人でなかった効果を生じさせるものです。 相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から、原則として3ヶ月以内にしなければなりません。この期間を熟慮期間といいます。熟慮期間を徒過したときは、限定承認と相続放棄という選択権は奪われ、単純承認したものとみなされます。また、相続人が相続財産の一部でも処分したときも単純承認したものとみなされるため、注意が必要です。


Case 20 死後3ヶ月経ってからの相続放棄の可否

相続人が相続放棄ないしは限定承認をする場合、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。ここに言う「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは通常相続人が被相続人の死亡の事実及びそれにより自己が相続人となったことを知った時を指し、原則、被相続人の死亡時がこれにあたるとされています。
しかし、熟慮期間経過後に負債が発覚した場合にまで、かかる原則を貫くことは、被相続人に財産も負債も全くないと信じてこれを放置していた相続人に酷な場合もあります。そこで、判例は、例外的に「相続人が被相続人に相続財産が全くないと信じ、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において相続財産が全くないと信ずるについて相当な理由が認められるときは、相続人が財産の全部もしくは一部の財産の存在を認識した時または通常これを認識し得るべき時から起算するのが相当である」としています。したがって、死後3ヶ月が経過した後であっても、相続人が被相続人の負債につきこれを知らなかったことに相当な理由があると認められる場合には、熟慮期間は、負債を知ったときから起算できる余地がありますので、ただちに家庭裁判所へ相続放棄の申述を行うようにしてください。

【特別な事情がある場合の熟慮期間の始期】
相続人が、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、その相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において上記のように信じたことについて相当な理由があると認められるときには、相続放棄の熟慮期間は相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識しうるべき時から起算すべきものである(最高裁判所第二小法廷昭和59年4月27日判決)。

熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは?

原則:相続人が被相続人の死亡の事実及びそれにより自己が相続人となったことを知った時(被相続人の死亡時)
例外:特別な事情がある場合には、熟慮期間の起算点を繰り延べ「相続人が財産の全部もしくは一部の財産の存在を認識した時」から3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができる(最高裁判所昭和59年4月27日判決)
最高裁判所昭和59年4月27日判決によれば、相続放棄の熟慮期間が「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時」から起算されるための要件は以下の3つ全てを満たした場合ということになります。

①被相続人に相続財産が全くないと信じた
②相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情がある
③相続財産が全くないと信じたことに相当な理由がある


一部でも相続財産の存在を知っていた場合〜遺産分割協議後の相続放棄の可否〜

相続財産が全くないと信じた/信ずるに相当な理由があった場合には、熟慮期間の起算点を繰り延べ、「相続人が財産の全部もしくは一部の財産の存在を認識した時」を起算点として、そこから3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができる、とされています(最高裁判所昭和59年4月27日判決) 上記判例が提示した要件を文字通り解せば、被相続人には債務に限らず、プラスの財産(も全く存在しないと信じていた場合に限られることになります。とすれば、債務の存在は全く知らなくても、プラス財産の存在を知っていたときには、例えその後、多額の債務があることが発覚した場合であっても、相続人の死後3ヶ月が経過していれば、以後、相続放棄をすることは出来ないということになります。

この点、相続財産の存在を前提に遺産分割協議をなし、その後、多額の相続債務が発覚したケースで相続放棄の申述を却下した第1審の適否が争われた事案があります。
ここで問題となるのが、
①相続財産の一部の存在を認識していた場合であっても、熟慮期間の起算点を債務が発覚した時点に繰り延べて、以後3ヶ月以内であれば相続放棄をなすことができるか
②遺産分割協議は相続分の処分にあたり、法定単純承認とみなされるが、多額の相続債務の存在を知らずになされた遺産分割協議を無効として、その後の相続放棄を認める余地はあるか、
の2点です。

①相続財産の一部の存在を認識していた場合であっても、熟慮期間の起算点を債務が発覚した時点に繰り延べることは可能か。
上記の事案が争われた大阪高等裁判所平成10年2月9日決定では、「熟慮期間については、相続人が相続の開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上の相続人となった事実を知った場合であっても、3か月以内に相続放棄をしなかったことが、相続人において、相続債務が存在しないか、あるいは相続放棄の手続をとる必要をみない程度の少額にすぎないものと誤信したためであり、かつそのように信ずるにつき相当な理由があるときは、相続債務のほぼ全容を認識したとき、または通常これを認識しうべきときから起算するべきものと解するのが相当である」と判示しています。
したがって、相続財産の一部の存在を認識していた場合であっても、①相続債務が存在しない、あるいは②相続放棄の手続をとる必要をみない程度の少額にすぎないものと誤信していたことにつき相当な理由がある場合には、熟慮期間の起算点を債務が発覚した時点に繰り延べ、以後3ヶ月以内であれば相続放棄が認められる場合があることを示唆しています。

②遺産分割協議は相続分の処分にあたり、法定単純承認とみなされるが、多額の相続債務の存在を知らずになされた遺産分割協議を無効として、その後の相続放棄を認める余地はあるか。
上記判例では、多額の相続債務の存在を認識しておれば最初から相続放棄の手続きを採っていたものと考えられ、そうしなかったのは相続債務の不存在を誤信していたため、として 「本件遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり、ひいては法定単純承認の効果も発生しないと見る余地がある」としています。
したがって、相続債務の存在を認識していれば当然に相続放棄手続きをとったであろうと考えられる場合には、遺産分割協議は要素の錯誤として無効となり、相続放棄が認められる余地があることを示しています。

このほか、被相続人名義の遺産の存在を認識していた場合であっても、「他の相続人が相続する等のため,自己が相続取得すべき遺産がないと信じ,かつそのように信じたとしても無理からぬ事情がある場合には、当該相続人において、被相続人名義であった遺産が相続の対象となる遺産であるとの認識がなかったもの,即ち,被相続人の積極財産及び消極財産について自己のために相続の開始があったことを知らなかったものと解するのが相当である。」(名古屋高等裁判所平成11年3月31日決定 )とした判例がある一方で、「被相続人が所有していた不動産の存在を認識した上で他の相続人 全員と協議し,これを長男に単独取得させる旨を合意し,同抗告人を除く他の抗告人らは,各相続分不存在証明書に署名押印しているのであるから, 抗告人らは,遅くとも同日ころまでには,被相続人に相続すべき遺産があることを具体的に認識していたものであり,抗告人らが被相続人に相続すべき財産がないと信じたと認められないことは明らかである。」(東京高等裁判所平成14年1月16日決定)として、被相続人の死後3ヶ月が経過した相続放棄を認めなかった判例も、一部ですが存在するのも事実です。
ただし、これは一部であり特段の事情がある場合には、死後3ヶ月が経過した相続放棄であっても、認められる余地がありますので、あきらめずに専門家に相談してみてください。


家庭裁判所の実務上の取扱い

3ヶ月の熟慮期間を緩やかに解する傾向にあり、死後3ヶ月が経過した相続放棄であっても「3ヶ月以内に相続放棄の申述をしなかったことについて相当の理由がないと明らかに判断できる場合にだけ申述を却下し,それ以外の場合は,申述を受理する実務が定着している」(判例タイムズ1100号(平成14年11月刊))とされています。


3ヶ月経過後の相続放棄の効力

相続放棄の申述が受理されたからといって、それは「一応の公証を意味するにとどまるもので、その前提要件である相続の放棄が有効か無効かの権利関係を終局的に確定するものではない」(最高裁昭和29年12月24日判決)ことから、債権者は訴訟上、相続放棄の効力を争うことができ、実際、相続放棄の申述が受理されたが、その後、訴訟となり、裁判の結果、相続放棄の効力が否定された判例が存在するのも事実です。
そのため相続財産の調査を慎重かつ迅速に行うべきであり、相続開始から3ヶ月経過後に債権者から負債に関する通知が届いた場合は、断じてこれを放置すべきではなく、速やかに専門家に相談するようにしてください。なお、相続財産の調査に時間を要する場合には、家庭裁判所へ申し出ることによって、熟慮期間を延長してもらうことも可能です。

◇熟慮期間延長の申立◇
申立先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
必要書類:①相続の承認又は放棄の期間伸長の申立書 ②申立人の戸籍謄本 ③被相続人の戸籍謄本・住民票除票 ④相続人一人につき収入印紙800円+連絡用の郵便切手


Case21 相続財産の処分とはどのような行為を指すか

相続人が相続財産の一部でも処分したときは、単純承認したものとみなされ、以後、相続放棄や限定承認をすることができなくなります。単純承認とみなされる処分行為には、売買や譲渡などの法律行為だけでなく、家屋の取り壊しなどの毀損・破棄といった事実行為も含まれます。もっとも、相続人が行った処分行為のすべてが単純承認とみなされるわけではなく、それが保存行為(※1)や短期賃貸借(土地であれば5年、建物であれば2年以内の期間の賃貸借契約)に当たる場合は単純承認とはみなされません。
では、どのような処分行為が単純承認とみなされるのでしょうか。
判例によると財産処分による単純承認が認められるためには相続人が自己の為に相続の開始した事実を知り、または少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえて処分したことを要すると解されています。ここから、相続人が自己の為に相続が開始した事実を知らずに処分行為を行った場合には、単純承認とはみなされないことになります。 以下、具体例を挙げて検討します。

※1保存行為 相続財産の価値を現状維持する行為のことで、遺産による相殺や返済期限が到来した債務の弁済、腐食しやすいものなどを処分行為は、財産全体の価値を維持するために行ったものであれば、相続財産の処分にはあたらないと解されています。

①相続財産から葬儀費用を支出した場合
相続人が、相続財産から葬儀費用を支出した場合、かかる行為は相続財産の処分として単純承認とみなされるのでしょうか。 被相続人の葬儀費用は、被相続人が支払うべきものではなく、葬儀を執り行った相続人にこそ支払い義務が認められるものなので、相続債務には含まれず、保存行為にはなりえません。しかしながら、葬儀は人生最後の儀式として執り行われ、社会的儀式として必要性が高いものであり、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえず、また相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果と言わざるを得ないとして、単純承認を擬制する相続財産の処分にはあたらないと解されています。 ただし、香典や弔慰金がある場合には、まずこれらを葬儀費用に充当すべきであり、相続財産から葬儀費用を支出する場合であっても、その額は身分相応の当然営むべき程度に抑えるべきです。これを超過した場合は単純承認とみなされる場合もありますので、注意が必要です。もっと言えば、「身分相応の当然営むべき程度」とされる基準が曖昧であるがゆえ、後日債権者から法定単純承認を主張されないようにするためにも、可能な限り相続財産から葬儀費用を支出することは避けた方が無難と言えます。

②死亡保険金から被相続人の債務を弁済した場合
相続人が受領した死亡保険金によって被相続人の相続債務の一部を弁済した行為が相続財産の処分にあたるかについて判例は、まず被保険者が死亡した場合、死亡保険金を法定相続人に支払う旨の条項がある保険契約に基づいて支払われた保険金は、被相続人の死亡と同時に相続人固有の財産となり、相続財産からは切り離されると判断した上で、相続人がした相続債務の一部弁済行為は、相続人自らの固有の財産である死亡保険金をもってしたものであるから、これが相続財産の一部を処分したことにあたらないことは明白であると判示しています。したがって、法定相続人を受取人とする死亡保険金をもって相続債務の一部を弁済する行為は、法定単純承認とみなされる相続財産の処分にはあたらないといえます。
下図は、判例を基に、相続財産の処分にあたるかいなかの一応の基準を示したものです。 個々のケースにより事情が異なりますので、下図で相続財産の処分に当たらないとされている行為であっても事案によっては処分行為とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性も否定できませんので、迷われたら専門家のアドバイスを仰いでください。


相続財産の処分に当たるとされるもの 相続財産の処分にあたらないとされるもの
不動産・動産その他の財産権の譲渡 遺産による相殺や期限が到来した債務の弁済(保存行為とされる)
家屋の取り壊し 死亡保険金による被相続人の債務の弁済
預貯金の解約・払い戻し 遺産による葬儀費用の支払
被相続人の債権を取立てて、これを収受領得する行為(※1) 身の回り品・僅少な金銭の受領
株式の議決権行使 資産価値のない物の形見分け(※2)
賃料物件の賃料振込口座を自己名義の口座に変更する行為 遺産による医療費の支払い
遺産分割協議

※1 被相続人の債権について、債務者へ支払請求することは消滅時効の中断事由になりますので、相続財産の価値を維持する行為といえるので、相続財産の処分行為には該当しません。
※2 経済的価値を有する物を形見分けとした場合は、相続財産の処分にあたり、単純承認とみなされます。


相続放棄の手続き

 STEP1 相続放棄申述の申立

申立先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
必要書類:①相続放棄申述書  ②申述人の戸籍謄本 ③被相続人の戸籍謄本  ④被相続人の住民票除票 ⑤収入印紙(1人800円)+返信用の郵便切手


 STEP2 家庭裁判所からの照会に回答する

申立から1、2週間程度で照会書が郵送されてくるので、照会書の各質問に回答を記入の上、裁判所へ返送する。
※事案によっては裁判所へ出向いて回答しなければならない場合もある。


 STEP3 家庭裁判所での審理

家庭裁判所において審理がなされ、問題がなければ相続放棄申述受理通知書が郵送されて、これで手続きが完了となる。


 STEP4 相続放棄申述受理通知書

相続債務の債権者から支払いを請求された場合は、この受理通知書のコピーを送付すればよい。ただし、債権者によっては相続放棄申述受理証明書(※1)を要求してくる場合もある。

※1相続放棄申述受理証明書 相続放棄が認められていることを証明する書類で、相続債務の債権者から要求される場合のほか、他の相続人が相続登記や預貯金等の解約などの申請に際し、必要となります。この受理証明書は家庭裁判所へ請求することによって交付されます。申述人以外からの利害関係人(共同相続人や被相続人に対する債権者等)からの交付申請も可能で、この場合は相続放棄者との間に利害関係があることを証する書面(戸籍謄本等)の提出が求められます。1通につき150円の収入印紙(郵送の場合は返信用の切手)が必要。

Case22 相続人が配偶者Aと未成年の子Bの場合、AはBを代理して相続放棄をすることができるか

未成年者が法律行為をするには、法定代理人(通常は親権者)の同意が必要ですが、相続において被相続人の配偶者と子は共に利害が対立する関係にあります。そのため親権者が、先行して又は同時に相続放棄をする場合を除き、未成年の子を代理して相続放棄をすることは利益相反行為として許されず、子のために特別代理人を選任するよう家庭裁判所へ申立なければなりません。したがって、Aは、自身も相続放棄をしない限り、Bを代理して相続放棄をすることはできず、Bのために特別代理人の選任を申し立てる必要があります。


相続放棄の効果

相続放棄をした場合は、相続開始時に遡ってその効力が生じ、放棄した者は、その相続について初めから相続人でなかったものとみなされます。そのため、被相続人の資産を承継できなくなる一方で、負債もまた引き継ぐ必要がなくなりますので、相続債務の債権者から支払いを請求されたとしても、裁判所から交付された相続放棄申述通知書のコピーまたは相続放棄申述受理証明書を示してこれを拒否することができます。ただし、この「初めから相続人ではなくなる」という相続放棄の効果には波及的に問題が生じうる可能性がないともいえません。
Aさん一家を例にみていきましょう。

●Aさん一家の相続

Aさん一家 Aさんの相続人は配偶者Bさん、子Cさん、Dさんの3人ですが、Cさんは既に亡くなっていることから、その子(Aさんから見れば孫)Eさんが代襲相続人となります。Aさんには多額の借金があったので、B,D,Eさんは共に相続を放棄するため家庭裁判所に申述し、これが受理されました。 ここで問題となるのが、配偶者と子(第1順位)が相続放棄をすると、この者たちは最初から相続人ではなくなることから、相続人の順位が繰り上がり、別の者が新たに相続人となって、被相続人の権利義務の一切を承継することになる点です。 Aさん一家の場合、配偶者のBさんと第1順位の子Dさん、孫Eさんが相続放棄したことによって、第2順位のAさんの両親が新たに相続人となります。両親が債務を引き継がないためには、自らが相続人になったことを知った時から、すなわち第1順位の子・孫が相続放棄をしたことを知った時から3ヶ月以内に相続を放棄しなければならず、これが受理されれば、次順位のAさんの兄弟姉妹が相続人となり、相続放棄をしない限り、Aさんの債務を引き継がなければならなくなります。
したがって、相続人が多額の債務を背負わないためには、配偶者及び第1順位から第3順位の相続人全てが相続放棄をする必要があり、相続放棄を検討する際には、事前に次順位の相続人へその旨通知し、相続人全員で相続放棄をする準備を整えるとよいかと思います。


相続を放棄する際の留意点

①借金などのマイナス財産を引き継がないかわりに、預貯金や不動産などのプラス財産も一切承継することができなくなります。
相続放棄後にマイナス財産よりプラス財産が上回っていることが判明しても、一旦なした相続放棄を撤回することは原則出来ません。そのため、相続放棄をするかどうかを決める際には、相続財産を正確に把握することが重要です。

②相続放棄後であっても、相続財産を処分すると、単純承認したものとみなされるため、後に債権者から訴えを提起された場合は、債務を引き継がなければならなくなる危険性があります。
相続放棄が受理されたからといって安易に遺品を処分せずに、専門家のアドバイスを仰いでください。

③相続放棄をすると、次順位の相続人に、権利義務の一切が移転します。
相続財産が債務超過の場合には、債務を引き継がないためにも相続人全員が相続放棄をする必要があります。

④相続放棄をしても、被相続人の保証人となっていた場合には、支払い義務から免れることはできず、自己破産を申し立てる必要があります。

⑤被相続人が生前、消費者金融やクレジット会社から継続的かつ長期間にわたり借り入れをしていた場合には、過払い金が発生している可能性があります。
利息制限法に定められた利率を超える利率で支払を続け、法定利率で引き直し計算をすると実質的には債務が完済しているにもかかわらず支払った金銭は過払い金として返還請求をすることができ、最終取引から10年が経過していなければ、相続人から過払金の返還を請求することができます。ただし相続放棄をすれば、この請求も行うことは出来ませんので、相続放棄前に確認が必要です。


2.限定承認

被相続人が多額の借金を抱えたまま死亡し、相続財産をもってしてもこれら借金等を返済できない場合には、通常、相続放棄を選択することになります。しかし、相続放棄をした場合には、前述した通り、不動産等のプラス財産もすべて放棄せざるを得ず、その中にどうしても手放したくない遺産があっても、これを手放さなければなりません。 そこで、このような場合には限定承認という手続きを選択することが考えられます。 限定承認とは、被相続人の残した債務及び遺贈を、相続財産の限度で支払うことを条件として相続を承認するもので、相続人は相続によって得た財産の範囲内で債務や遺贈を弁済すれば足り、相続人固有の財産で支払う義務は負いません。プラス財産と債務のいずれが多いのか容易に判明しない場合や、相続財産の中に手放したくない財産がある場合等に、この限定承認を選択することが考えられますが、相続放棄に比して手続きが煩雑であること、および税とのからみからも、敬遠されがちな手続きではあります。


手続き面での相続放棄との違い

相続放棄と限定承認はいずれも相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述を行うことを要しますが、下記のような相違点があります。

①相続放棄は各相続人が単独で行うことができるのに対し、限定承認は相続人全員で申述を行わなければなりません。 →共同相続人のうち1人でも反対する者がいたり、単純承認とみなされる処分行為を行った場合には限定承認の手続きを採ることができなくなります。

②限定承認では、相続人が複数いる場合、家庭裁判所は職権で相続人の中から相続財産管理人を選任しなければなりませんので、申述に際しては相続財産管理人となるべきものを決めて上申する必要があります。

③限定承認では、相続人はあらかじめ相続財産を調査し、財産目録を作成してこれを申述に際して添付しなければなりません。
→財産目録の作成にあたり、意図的に相続財産の一部を記載しなかった場合には、たとえ限定承認の申述が受理された後であったとしても、その効果は認められません。

④限定承認は、家庭裁判所へ申立をするだけで手続きが終わるというものではなく、清算手続き(債権者への公告や不動産の競売など)を行う必要があるため、相続放棄に比して手間と時間がかかります。


税金の問題
限定承認を選択する場合には、税金についても考慮しなければなりません。具体的には譲渡所得税のことで、相続財産のうち、不動産や株式などの資産については相続開始時に、その時における価額に相当する金額により、これら資産の譲渡があったものとみなして譲渡所得税が課せられます。これをみなし譲渡所得課税といい、現実に売却していなくても納税する必要があるため、注意が必要です(準確定申告も必要)。もっとも、この譲渡所得税は本来、被相続人にかかるものなので、相続財産の限度で支払えば足り、相続人固有の財産から納付する義務はありません。

限定承認の手続き

 STEP1 共同相続人全員で限定相承認の申述

申立先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
必要書類 ①限定承認申述書  ②相続人全員の戸籍謄本・住民票 ③被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本  ④被相続人の住民票除票 ⑤財産目録 ⑥収入印紙+返信用の郵便切手
※事案によってはこの他にも書類を要求されることがある


 STEP2 限定承認申述受理の審判
      相続財産管理人の選任(※1)

 STEP3 債権申出催告の公告・通知

限定承認者は限定承認後5日以内(相続人が複数いる場合は、相続財産管理人が選任後10日以内)に、すべての相続債権者及び受遺者に対して、限定承認したこと、及び2ヶ月以上の期間を定めてその期間内に請求を申し出ること、期間内に申出がない債権は清算から除外されることを公告し、知れてる債権者に対しては各別に通知を行う(※2)。


 STEP4 相続財産の換価

相続債権者らに弁済のために相続財産を売却する必要が生じたときは、限定承認者もしくは相続財産管理人は競売を申し立てることになる。相続人が相続財産の承継を希望する場合は、家庭裁判所によって選任された鑑定人の評価した価額をその固有財産から支払うことによって競売を差し止め、自ら所得することも可能(先買権の行使※3)。


 STEP5 債権者等への弁済

公告期間が満了し相続財産を全て換価処分すれば、限定承認者/相続財産管理人はその金銭を弁済していくことになる(※4)。

※1 相続人が1人だけの場合は、限定承認者がその後の手続きを行う。
※2 知れてる債権者については、公告期間中に申出がなくとも、清算から除外されることはない。
※3 先買権については後述
※4 弁済の優先順序は①相続財産に対して抵当権、質権、留置権、先取特権(一般先取特権を除く)を有する相続債権者 ②請求申出期間内に申出た相続債権者その他知れてる相続債権者 ③受遺者の順になる。


相続人の先買権

限定承認をした相続人は、家庭裁判所が選任した鑑定人による評価額を支払うことで、競売対象物を取得することができます。これを先買権といいます。相続債権者等にとっては、相続財産のもつ客観的価値さえ確保されればよく、他方限定承認者にとっては、先祖伝来の財産や家宝、あるいは形見などの主観的価値ゆえに換価を望まない場合には、そのまま保持していたいとの必要性がることから認められた制度です。
先買権が行使されると、競売手続きは中止ないしは停止され、以後競売に代わる換価手続きが行われることになります。ただし、競売対象物に抵当権等が設定されている場合は、抵当権者の行う担保権の実行までは妨げることは出来ません。
この先買権を行使するためには、家庭裁判所に鑑定人の選任申立を行う必要があり、その鑑定人の費用(30万円程度)及び鑑定人の評価額を、行使する者の固有の財産から支払わなければなりません。 また、限定承認者が複数いる場合において、そのうちの一人の者が不動産について先買権を行使した場合には、この者の単独所有となりますので、他の限定承認者の法定相続分について不動取得税が課せられます。


限定承認のメリット・デメリット

メリット
・過剰な借金を引き継ぐ必要がなく、債務を清算してもなお相続財産が残っていれば、相続人間でこれを分配することができる
・先買権を行使すれば、手放したくない財産を手放さずにすむ

デメリット
・相続人全員で行わなければならない
・手続きが煩雑で、手間と費用がかかる


■ケースで見る相続■
Case 1 相続人に行方不明者がいる場合   
Case 2 相続人に未成年者がいる場合  
Case 3 相続人に認知症者がいる場合
Case 4 相人に胎児がいる場合
Case 5 相続人以外の者に対する遺贈がある場合
Case 6 相続人に海外赴任中の者がいる場合  
Case 7 相続人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲渡した場合
Case 8 死後認知を請求する者がいる場合
Case 9 遺産分割協議で、借金を特定の者が相続するとした場合
Case 10 遺産からの収益がある場合     
Case 11 共同相続人のうち一人が勝手に相続財産を売却した場合
Case 12 相続財産が自宅不動産のみの場合の分割方法
Case 13 内縁の配偶者と相続
Case 14 異母兄弟がいる場合の相続分
Case 15 養子の相続分
Case 16 前妻の子・後妻の連れ子がいる場合の相続分
Case 17 本来相続人であるべき者が相続人でなくなる場合
Case 18 相続人がだれもいない場合の財産の行方
Case 19 同時死亡の場合の相続
Case 20 死後3か月が経過した場合の相続放棄の可否
Case 21 相続財産の処分行為とは?
Case 22 親は子を代理して相続放棄ができるか?
Case 23 相続放棄した兄が再び相続権を主張できるか?
Case 24 親に対する相続放棄と代襲相続
Case 25 相続放棄をする人がいると相続順位はどうなるか?
Case 26 借金を負担することなく、自宅不動産を手放さなくてすむ方法
Case 27 遺言内容と異なる遺産分割を行うことは可能か
Case 28 遺産分割後、新たに遺産が発見された場合、遺産分割協議は無効か
Case 29 残された障がいを持つ子の生活を保障したい場合
Case 30 自分の死後の相続について承継人を指定したい場合
     
  ■相続手続きに関するページ■
相続
相続タイムスケジュール
遺言がある場合の手続
遺言がない場合の手続き(遺産分割)①相続人を確定する<誰が相続人になるのか>
遺言がない場合の手続き(遺産分割)②相続財産を確定する<何を相続するのか>
遺言がない場合の手続き(遺産分割)③具体的相続分を確定する<どれだけ相続するのか>
遺言がない場合の手続き(遺産分割)④遺産の分割方法
遺言がない場合の手続き(遺産分割)⑤借金がある場合の相続方法
遺言がない場合の手続き(遺産分割)⑥遺産分割がまとまらない場合
相続放棄、限定承認
相続登記・遺産整理業務
亡くなられた方に関する事務手続き
こんな場合はどうする?ケースで見る相続
相続税の計算方法
相続の基礎知識①相続人の順位と法定相続分
相続の基礎知識②相続の対象となる財産  
相続の基礎知識③相続財産の分割方法
相続の基礎知識④遺留分
相続の基礎知識⑤特別受益と寄与分
 

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